相続税を依頼する場合の税理士の選び方
相続税を依頼する税理士の選ぶ際には、以下の点に着目するのが良いでしょう。
1 最新の規定をキャッチアップしていること
相続税については、大小問わず、ほぼ毎年、何らかの規定の変更が行われています。
このような規定の変更は、相続税の申告にあたっての落とし穴になりがちです。
注意しなければならないのは、過去の規定では税額軽減を用いることができたのに、最新の規定では税額軽減を用いることができない場合です。このような場合に、過去の規定にしたがって相続税の申告をしてしまうと、誤って税額軽減を用いることとなってしまい、後日、加算税や延滞税が課税されるおそれがあります。
逆に、過去の規定では税額軽減を用いることができなかったのに、最新の規定では税額軽減を用いることができるという場合も、注意したいところです。このような場合に、過去の規定にしたがって税額軽減を用いることなく申告してしまうと、本来納付すべき税額よりも多額の相続税の納付することとなってしまいかねません。
たとえば、かつては、二世帯住宅については、家の中で自由に行き来ができる場合に限り、被相続人と同居している世帯と扱われ、同居親族についての小規模宅地等の特例を用いることができるとされていました。
ところが、平成27年の税制改正により、区分所有登記がなされている場合には、被相続人と同居している世帯とは扱われない一方、区分所有登記をしていない場合には、被相続人と同居している世帯と扱われ、同居親族についての小規模宅地等の特例を用いることができるようになりました。
こうした最新の規定をキャッチアップしていなければ、正確な相続税の申告を行うことはできません。
最新の規定をキャッチアップするためには、普段から規定の変更についての情報を把握し、必要な場面で適用する体制を作っておくことが必要不可欠です。
2 民法の規定や判例を把握していること
相続税は、他の細目と比較して、法律の世界との関連性が深い分野です。
税理士は法律の専門ではありませんが、相続税の申告を行うに当たっては、ある程度、民法の規定や判例を知っておく必要があります。
たとえば、土地の評価を行うにあたり、その土地に借地権が設定されていると言えるかどうかによって、大きく評価額が異なってくることがあります。
借地権が設定されていると言える場合は、その土地の評価額から、借地権割合を差し引くことができ、大きく評価額を減少させることができるからです。
それでは、次のような場合に、借地権が設定されていると言うことはできるのでしょうか?
被相続人が所有する土地を第三者に賃貸していました。
賃借人は、土地上にプレハブの事務所を設け、自動車の展示場を営んでいました。
この土地は、借地権の決定された土地に該当し、土地の評価額を算定する際、借地権割合分の減額を受けることはできるのでしょうか?
これらの疑問に正確に答えるには、民法の規定や判例を把握している必要があります。
こうした知識も把握していなければ、適切な相続税の申告を行うことはできません。
3 相続税を依頼する場合の税理士の選び方
相続税については、スポットで受任する税理士が多く、普段から相続税の案件を担当している税理士は少数派でしょう。
少数派である相続税に特化した税理士は、普段から相続税の案件を担当し、調査を繰り返しているでしょうから、先に述べたようなポイントを押さえている蓋然性が高いでしょう。
相続税を依頼する税理士を選ぶ際には、相続税に特化しているかどうかを1つの判断材料とすることが考えられます。
被相続人が給与所得者の場合の相続税についての注意点
相続税は,すでに退職され,年金で生活されている方が亡くなられて課税されることが多いでしょう。
現実には,給与所得者が亡くなられ,相続税が課税されることがしばしばあります。
給与所得者が被相続人となる場合は,相続税の課税対象となる財産で,いくつか注意しなければならないものがあります。
以下でその具体例を挙げたいと思います。
1 未支給の給料
給与所得者が亡くなった時点で,未支給の給料がある場合がしばしばあります。
亡くなった後に会社や雇用主から支払われた給与があれば,相続時点では給与の支払の受ける権利があったこととなりますので,未支給の給与として,相続税の課税対象となります。
未支給の給与については,相続税申告の際,相続財産として挙げることを見逃しがちですので,注意する必要があります。
2 死亡退職金
給与所得者は,退職時に退職金を受け取ることができることがあります。
給与所得者が亡くなった場合には,本来退職時に受け取ることができたはずの退職金を,死亡を理由として支給されることがあります。
このように,死亡を理由として支給される退職金のことを,死亡退職金といいます。
死亡退職金は,みなし相続財産となりますので,相続税の課税対象となります。
死亡退職金については,生命保険金と同様,500万円×法定相続人数の非課税限度額が存在し,非課税限度額を超える部分に限り,相続税が課税されることとなります。
なお,死亡退職金は,会社から支給されることが多いですが,会社が運用委託している信託銀行等から支給されることもあります。
信託銀行等からまとまった入金があった場合は,死亡退職金に該当するかどうかをきちんと区別する必要があります。
3 会社や雇用主から支払われる弔慰金,花輪代,葬祭料
給与所得者が亡くなった場合には,会社や雇用主から弔慰金,花輪代,葬祭料といった金銭が支払われることがあります。
これらについても,一定の金額を超える部分については,死亡退職金とみなされ,相続税の課税対象となります。
一定の金額とは,以下のとおりです。
・ 業務上の死亡の場合→3年分の普通給与
・ 業務上の死亡でない場合→半年分の普通給与
一定の金額を超える部分については,死亡退職金とみなされますので,さらに500万円×法定相続人数を超える金額に限り,相続税の課税対象になります。
4 共済組合から支払われる弔慰金,埋葬料
亡くなったのが国家公務員,地方公務員,学校の先生である場合は,共済組合から弔慰金,埋葬料が支払われることがあります。
具体的には,以下のとおりです。
・ 国家公務員共済組合法に規定する弔慰金,埋葬料
・ 地方公務員等共済組合法に規定する弔慰金,埋葬料
・ 私立学校教職員共済法に規定する弔慰金,埋葬料
これらについては,相続税の課税対象ではないものとされています。
相続放棄と相続税
相続放棄を行ったとしても,相続税を納付しなければならない場合があります。
それは,相続放棄を行った人が生命保険金の受取人に指定されており,多額の生命保険金を受け取ることとなった場合です。
たとえば,以下のような例を考えてみましょう。
・ 相続人が実子1人
・ 相続財産が1000万円
・ 相続債務が2000万円
・ 生命保険金が8000万円,受取人は実子
このような例では,相続債務が相続財産を上回っているため,相続放棄を行うことがあり得るでしょう。
そして,相続放棄を行ったとしても,生命保険金の受取人に指定されているため,実子が生命保険金を受け取ることができます。
上記の例で,相続税の課税価格を計算すると,以下のとおりです。
・1000万円【相続財産】+8000万円【生命保険金】-2000万円【相続債務】=7000万円【純資産価額】
・7000万円【純資産価額】-3600万円【基礎控除額】=3400万円【相続税の課税価格】
このように,生命保険金が純資産価額に加算されることで,純資産価額が基礎控除額を上回る場合には,相続税の課税価格を生じることとなり,相続税が課税されることとなります。
上記の例ですと,480万円の相続税が課税されることとなります。