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相続させる遺言と遺贈する遺言

  • 文責:代表 弁護士 西尾有司
  • 最終更新日:2023年1月4日

1 遺言の機能

遺言によって決めることができる事項は、法律によって定められています。

これを遺言事項といいます。

遺言事項のうち、遺言を作成する際に最も定められることが多いのが、誰がどのような遺産を取得するかということです。

遺言では、遺産について、まとめて、誰が取得するかが定められることもありますし、個々の財産を列挙し、それぞれの財産について誰が取得するかが定められることもあります。

ところで、この、誰がどのような財産を取得するかについての定め方には、大別すると、相続させる遺言と遺贈する遺言の2種類の定め方があります。

これらの用語の用い方次第では、思わぬ事態が発生するおそれがあります。

ここでは、それぞれの用語でどのような違いがあるかについて、説明したいと思います。

2 相続させる遺言

相続させる遺言は、相続人の間で、どのように遺産分割を行うかを定めるものになります。

このため、相続させる遺言によって財産を引き継ぐことができるのは、相続人のみとなります。

相続人以外の人への財産の引き継ぎは、相続させる遺言によっては行うことができず、後述の遺贈する遺言によって行う必要があることとなります。

仮に、文言上、相続人以外の人に対して財産を相続させるとの遺言を作成したとしても、法律上は、後述の遺贈する遺言としての効力があると解釈されることとなります。

相続させる遺言の特徴は、以下のとおりです。

⑴ 登記手続が簡略であること

相続させる遺言を作成した場合には、相続人は、相続の発生により、当然に財産を引き継ぐこととなります。

このため、不動産の登記を行う場合には、他の相続人の印鑑等を得なくても、相続させるものとされた相続人だけで、登記の手続ができることとなります。

後述のとおり、遺贈する遺言の場合は、他の相続人の印鑑等を得なければ、登記の手続を行うことができないとされていますので、相続させる遺言については、登記の手続が簡略化されていることとなります。

⑵ 登録免許税の負担が小さいこと

相続させる遺言の場合は、登録免許税の税率が0.4%となります。

後述のとおり、相続人以外の人に対して遺贈する遺言の場合は、登録免許税の税率が2%となりますので、相続させる遺言については、登録免許税の税率が低めに設定されていることとなります。

⑶ 農地の名義変更の手続が簡略であること

相続させる遺言の場合は、農地法3条の許可がなくても、相続人への名義変更を行うことができるとされています。

後述のとおり、相続人以外の人に対して特定遺贈する遺言の場合は、農地法3条の許可を得なければ、受遺者への名義変更を行うことができないこととされていますので、相続させる遺言については、農地法上も、名義変更の手続が簡略化されていることとなります。

⑷ 不動産取得税の負担がないこと

相続させる遺言の場合は、不動産取得税が非課税とされています。

後述のとおり、相続人以外の人に対して特定遺贈する遺言の場合は、受遺者に不動産取得税が課税されることとなっていますので、相続させる遺言については、不動産取得税の税負担も軽減されていることとなります。

3 遺贈する遺言

遺贈する遺言は、遺言を作成した人の死亡を原因として、遺言を作成した人から遺贈を受けた人に対して、財産が譲渡されるものとなります。

相続させる遺言とは違い、遺産分割の仕方を定めるものではありませんので、相続人以外の人にも、遺贈する遺言を作成すれば、財産を引き継ぐことができます。

遺贈する遺言の特徴は、以下のとおりです。

⑴ 登記手続が複雑であること

遺言を作成した人から遺贈を受けた人に対して財産が譲渡されることとなりますので、不動産の登記を行う場合には、双方が手続に関与する必要があります。

遺贈の登記を行う段階では、遺言を作成した人は存命ではありませんので、遺言を作成した人の相続人全員から印鑑(実印に限ります)等を得て、手続を行う必要があります。

遺言執行者が選任されている場合には、遺言執行者が遺産の処分権を有することとなりますので、遺言を作成した人の相続人全員の代わりに、遺言執行者の印鑑(実印に限ります)等を得ることとなります。

なお、令和6年4月1日以降は、改正法の施行に伴い、相続人に対して遺贈する遺言に限り、受遺者が単独で登記手続を行うことができるようになります。

他方、相続人以外の人に対して遺贈する遺言については、令和6年4月1日以降も、相続人全員または遺言執行者の印鑑等が必要とされます。

遺言で遺言執行者が指定されていない場合には、家庭裁判所において遺言執行者の選任申立を行い、新たに遺言執行者を選任する方法も考えられます。

この場合は、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所において、遺言執行者の選任申立の手続を進めることとなります。

加えて、遺贈する遺言の場合は、基本的に、登記申請時に不動産の登記識別情報通知(権利証)を添付しなければ、登記手続を進めることができません。

⑵ 相続人以外の人に遺贈する場合は、登録免許税の負担が大きいこと

相続人以外の人に対して遺贈する遺言の場合は、登録免許税の税率が2%になり、相続させる遺言の0.4%よりも税負担が大きくなります。

相続人以外の人が遺贈を受けた場合は、固定資産評価額の2%の登録免許税を納付する必要があり、まとまった金額の負担が生じる可能性がありますので、注意が必要です。

他方、相続人に対して遺贈する遺言の場合は、登録免許税の税率が0.4%になります。

⑶ 相続人以外の人に特例遺贈する場合は、農地の名義変更の手続が複雑であること

相続人以外の人に対して特定遺贈する遺言の場合は、農地法3条の許可を得なければ、不動産を取得した人への名義変更を行うことができません。

農地法3条の許可については、どのような場合でも必ず得られるものではなく、不動産を取得した人等が一定以上の面積の農地を所有していること、年間で一定時間以上農業に従事していること等の条件を満たさなければ、農地法3条の許可を得ることができないこととなっています。

このため、特定遺贈する遺言自体は有効であっても、不動産を取得した人が農業と無関係である場合等には、農地の名義変更を行うことができないといった事態が生じ得ることとなります。

他方、相続人に対する特定遺贈の場合、包括遺贈(相続人以外への包括遺贈を含む)の場合は、農地法3条の許可が不要とされています。

⑷ 相続人以外の人に特定遺贈する場合は、不動産取得税が課税されること

相続人以外の人に対して特定遺贈する遺言の場合は、不動産を取得したい人に対し、不動産取得税が課税されます。

不動産取得税は、固定資産評価額の3%前後であり、まとまった金額の課税がなされる可能性があるため、注意が必要です。

他方、相続人に対する特定遺贈の場合、包括遺贈(相続人以外への包括遺贈を含む)の場合は、不動産取得税が非課税とされています。

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